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夕張市「財政再建団体」になる過程 ②

古里の街が失くなるのは辛いものです。夕張が破綻し「財政再建団体」になる過程はどのようなものだったのか。前回の続きです。

http://mickymagicabc.hateblo.jp/entry/2021/03/19/095012
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夕張の負債は、実質負債632億円のうち地方債残高などを除いた360億円でした。360億円の内訳は、一般・観光事業など4会計と第3セクターへの市の損失補てんです。それを20年で返すというのが市が提案した再建計画でした。しかし管轄の総務省に何度も突き返されます。

 

360億円を返済するためには、歳出を最大限削り、歳入は公共事業の値上げなどで増やすことが基本となります。監督する総務相がこだわったのが、歳出面では「全国最低レベル」でした。当時の総務大臣は今の菅総理大臣でした。菅総務相は記者会見で「住民に冷たいという批判もあるが、例えば市の職員数は人口規模に比べて極めて多かった」と指摘し、さらにあやゆる面で全国最低水準まで切り詰めを求める考えを改めて強調した。
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もともと「国が補助金制度という名目で、自治体にお金を使えと言ってきたじゃないのか」 夕張市議会でも、政府や銀行を批判する自民党市議がいました。


徹底的な情報公開が行なわれなければ、到底市民の納得は得られません。もちろん、補助金目当てに過大な観光投資に暴走し、莫大な赤字を隠蔽しながら不適正な経理を重ねてきた、夕張市の行政責任は厳しく問われなければなりませんが、しかし国が「補助金制度」を利用して自治体に箱物投資・観光投資をあおり、誘導した国の産業政策と同時に国の政策に乗じて、自治体を借金漬けにし、金利で莫大な利益を得た大手銀行の果たした役割と責任についても問われなければなりません

 

国は、夕張の莫大な投資に対して中田市長に感謝状を贈っています。それは夕張市民が誰もが知っている事でした。全国の自治体からは夕張の莫大な投資はどのようなモノなのかと視察に来ていたほどです。夕張が観光開発に乗り出したのは、バブルが始まる頃でした。有名銀行は有り余るお金を夕張市に貸付けていました。中田市長はバブルに踊らされていたのです。 

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仮面ライダーBLACK 恐怖!悪魔峠の怪人館』夕張市長・中田鉄治氏も特別出演

 

高橋はるみ知事は、財政再建計画のおおまかな方向性を時期を「8月いっぱい」を目安にすると記者会見【7月14日】で発表しました。後藤市長は「8月いっぱいまでまとまるかはわからない」 総務省からの催促で計画策定のスピードを少しでもあげたい道庁に対し、全く準備もないまま未経験の仕事に突入し右往左往する市。「全く何をどうすればいいのか方法がわからない。能力がないんです」


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総務省から二人の役人が夕張に入り財政再建計画の骨子ができた。公共施設は、市内唯一の養護老人ホーム、図書館、美術館など多くを廃止する。11校の小中学校は各1校に統廃合する。プールや市営球場、公衆トイレ、共同浴場、市役所連絡所を廃止。市の補助事業も、高齢者敬老バス乗車証、ホームヘルパー派遣、子育て支援センター運営、小中学生教室、農業振興対策、中小企業育成対策、防犯灯設置、交通安全対策、その全ての維持管理など、片っ端から打ち切る内容だった。


夕張市民の負担増は、子供をもつ家庭が最も負担が多いことがわかりました。一番の原因は 保育料が一気に国の基準に値上げされたことで、負担増は年間16万5880円にのほりました。次に50代夫婦と子供二人の家庭で年間4万8480円。65歳以上の夫婦が年間2万5400円。65歳以上のお年寄りが年間4340円でした。


市民の負担はもとより、夕張市職員も痛みを共有しなければなりません。給料は全国市町村で最低水準の3割減、特別職給与6割減、特殊勤務手当全廃、ボーナス年間6割削減。41歳モデルで年収370万円。退職金は2010年までに1/4削減する。特別職には退職金はない。更に2009年までに職員の数を半分以下にするという。

 

 夕張市はもとより道庁の職員も「もう血も出ない。これ以上の削減は厳しい」と嘆きがあがったほどでした。


市民からは、「自然豊かな夕張は、子供に良い環境。しかし、不便で税金も日本一高くなってしまっては、住む意味が無くなってしまう」

 


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2006年12月 凍てつく寒さの中、菅義偉総務相が夕張に来訪した。「実態を自分の目でみて関係者と意見交換をしたい」と視察が決まった。視察するのは、養護老人ホーム公営住宅、公衆浴場、市立総合病院、石炭博物館、めろん城、市役所など。懇談会には商工会議所会頭や市農協組合長、青年会議所理事長、市老人クラブ連合会代表、市長、議長など13人が出席し、夕張の厳しい実情への理解を求めた。

 

視察のあとの記者会見で、菅総務相は「再建に向け、市民の強い意気込みを感じた。交通の便が悪いなど夕張特有の事情も分かった。安部総理からも、高齢者や子供に配慮するよう言われている。夕張が頑張っている姿を見せれば、国が支援しても国民は理解をしてくれるはず。一定の行政サービスは国が補助する。高齢者や子供には配慮したい」

わずか 3時間半の夕張来訪でした。

 

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総務相高橋はるみ知事に夕張の現状を説明する後藤夕張市長。

 

総務省は、財政再建計画の骨子を一部修正をしました。最終的な財政再建計画では、5項目の修正がありました。

 

①廃止の予定だった敬老バスは 100円の値上げ【200円→300円】で存続。
②公衆トイレの一部存続。
③保育料値上げは段階的に。
④スイミングセンターは 夏のみ限定で存続。
⑤南部コミュニティセンターは町内会の運営で存続。結局、夕張の厳しい現状は何も変わりはありませんでした。


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以来、政治家の夕張来訪は各党から先を争うように来るようになりました。来年(2007年)の4月に統一地方選を控え、民主党や野党は、夕張破綻を地方格差の象徴として選挙戦の争点にしようとしていました。民主党鳩山由紀夫幹事長は、議員団10人で訪れ「計画骨子は総務省からの押し付けではないか」と後藤市長に迫っていた。 市民は大物政治家の来訪に冷ややかな目線で見ていました。

 

財政再建計画の骨子ができた段階ではもう遅い」「選挙を控えたパフォーマンス」「マスコミで夕張の厳しい実情を知り国や道が批判されるようになったから、夕張を訪れただけだ」「いざとなると国や政治家は当てにできないと分かった」

 

2007年以降、夕張を脱出する市民が多く現れました。先ず、最初に動き出したのは、夕張市役所の職員でした。2009年まで段階的な人員削減で今の半数の150人を目指していた夕張市でしたが、2007年で早期退職を希望する職員は200人に及びました。それは夕張市役所の2/3の職員の数で市民は驚きました。早くやめた方が退職金が多く出る為、重税で生活が厳しくなる夕張からの脱出でした。


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「借金の原因を作った行政の人たちは、夕張から逃げ出さないで私たちの生活を見続けて欲しい」この時の夕張市民の絶望は計り知れなかった。